クソニート牧場の日記

37歳のクソニートが新たな道を模索しています

空手の先生の思い出(前編)

俺は高校時代空手部に所属していたのだが、そこに月2、3回指導に来てくれる外部の先生がいた

当時55歳過ぎで、空手道場の師範という訳ではなく、某自動車メーカーに勤務しているサラリーマンだった

しかしその先生が音頭をとって、8つくらいの空手の町道場を集めた合同の大会を開いたりもしていたので、そこそこ名の知れた人だったのだと思う

その先生の話



ブロック割り



その先生は道場こそ持っていないが、自分の流派を持っていた

俺たち空手部員は、その流派の昇段・昇級審査を受けることになる(審査はその自動車メーカーの体育館でやっていた)

その流派で黒帯を取るためには、ブロック割りを成功させなければならない


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写真の様に軽量ブロック1枚を、拳を握り小指の付け根側を振り下ろす鉄槌という動作で割るのである

これに失敗し、俺の代の部長と副部長がそれぞれ1度骨折したことがあるので、そこそこ難しい技である



昇段審査とは別に、このブロック割りをやる機会がある

それは、俺たちの高校の文化祭の時に、空手部の演武会を行い、そこで様々な演武の1つとして行うのである

演武会では先生もブロック割りをやるのだが、俺ら高校生と同じではつまらないのと、先生の派手好きな性格からちょっと趣向が凝らされていた




先生の時だけは、ブロックに灯油を撒いて火をつけていたのである




演武会は学校の中庭でやっていたので、何かに燃え移る心配はさすがになかった

しかしよく考えると、教師でもない外部の男が中庭に灯油を撒いて火をつけているというのは、現代の感覚ではちょっと異常である

しかも火をつけることによって別に難度が変わる訳ではなく、ただただ見た目の派手さのみである

その上先生は演武会等ここぞという時はブロックに切れ込みを入れて割れやすくするイカサマをしていたので、難度的には俺ら以下であった



ブロックを割るには



さてさて、そんなブロック割りであるが、割る為には色々とポイントがある

筋トレをして、正確なフォームで、振り下ろした時に上手く体重が乗るように、等色々ある


しかし、1番重要なのはブロックをよく日に当てて乾かすことである


コンクリートブロックは、濡れていると粘性が出て割りづらくなるのである


したがって日々の鍛錬よりも毎日ブロックをよく陽のあたる場所に置くことが上達の近道になる


……これをイカサマと言うなかれ


だってブロック割りをするとは言ってるけど、それを乾かしてないなんて一言も言っていないのだから


切れ込みを入れるのはさすがにアウトだと思う



さてそんなブロック割りであるが、俺は体重があることもあり、1度も失敗したことはなかった

そうなって来るとやってみたくなる事がある




ブロック2枚割りである




俺はいつか2枚に挑戦したくてウズウズしていたのだが、それを自分から言うのは少しためらわれて言い出せずにいた

そんな時についに先生からるか「お前2枚に挑戦してみるか?」と言われたのである




最悪のタイミングで




空手とは気合いである



それは忘れもしない文化祭が1ヶ月後に迫った時期であった

このくらいから文化祭での演武会に向けて、演目を決めたり本格的な練習に入っていく

俺の友達は四方割りという、自分の前後左右の板を割る演武をすることになった


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これの板を持つ係を俺もやることになり、1番最後の大技、かかと落としを板で受けることになった

かかと落としというのは、脚を高く振り上げて、相手にかかとを落とす蹴り技である


この練習中にハプニングが起こった


友達の振り降ろしたかかとは板の中央を少しズレ、板を支える俺の右手薬指に命中したのである

かかとと板に挟まれた俺の指の爪は、割れはしなかったものの血が出て、爪は紫になっている



痛い、めちゃめちゃ痛い



先生も「おい大丈夫か?」と心配してくれて、マネージャーも絆創膏を持ってきて手当してくれた

この後は俺のブロック割りの番であるが、さすがにこれでは練習にならなそうである

そう思っていると、先生がこう聞いてきた




「出来そうか?」




……やったことのない人にはわからないかもしれないが、空手の世界において気合いの入っていない返答をすることはを意味する


具体例を上げよう


俺の先輩にかの有名な極真空手出身の人がいた

極真空手では腹部を鍛えるために、みんなが仰向けに隣り合わせになって寝そべり、その腹を勢いよく師範が踏みつけていくという荒行があるという


それはかなり痛くキツイらしい


師範が何往復かしてみんなの腹部を踏みつけ、その鍛錬もようやく終わる

先輩はようやく終わったかと胸を撫で下ろしたという


その時




「もういっちょお願いします!!」




と、どこかから聞こえるもういっちょの声


そうすると師範も嬉しそうに「よし!!もういっちょいくぞ!!」と言って


その人だけを踏む訳にはいかないので、みんなをもう1往復踏んでいく


先輩は「もういっちょ」した奴にかなりムカつきながらも、今度こそ終わったかと思っていると




「もういっちょお願いします!!」




先程とは別の場所から聞こえる「もういっちょ」の声!!


かくして、鍛錬が終わりそうになる度にみんな自分が気合い入ってる所を見せようと「もういっちょ」して、延々にその鍛錬は繰り返されたという…………



そのくらい空手とは、気合いを見せるスポーツと言っても過言ではないのである

指を負傷していようがなんだろうが、先生に「出来そうか?」と聞かれたら


「出来ます!!」


と言うしかないのである……


そう答えると先生も満足そうにうなずいた



負傷した指をにぎにぎして確認してみる

かなり痛いが、ブロック割りは失敗したことはないし、ギリギリいけるかもしれない

そう思ってブロックの準備をしていると、突然先生がこう言った




「お前そろそろ2枚に挑戦してみるか!!」




2枚はいつか挑戦したいと思っていた

ウズウズしていた




しかし、なぜこのタイミングで言い出した?




オマエオレガケガシタノミテタダロウガーー!!



……しかし、先程述べたように




空手とは気合いを見せるスポーツ




俺の返事は



「押忍!!やりたいです!!」




しか選択肢はなかったのである…………


(つづく)