お祭り男がやってきた
俺は神奈川住みだが、こっちから三重県に引っ越した友達がいるので会いに行った
仕事をやめたばかりで時間もあったので、和歌山や大阪等を車で回った後、三重県に入った
お金がないので、三重県に着くまで3、4日程車中泊していたと思う
ろくに風呂にも入っていなかったから、友達との待ち合わせはスーパー銭湯にして、小汚い身なりを整えてから会うことにした
時間もあったから、待ち合わせの数時間前に入り風呂を楽しんでいた
ここはお風呂の数も多く、追加料金を払えば岩盤浴もある
そして、ここだけにしか俺は見たことがない異色のサービスがあるのだ
マンガを持って岩盤浴出来るのである
マンガを置いてあるスーパー銭湯は少なくない
むしろ最近は置いてあるマンガの量をウリにしてホームページ等に書いてあり、さながら風呂に入れるマンガ喫茶といった様相を呈している
しかしながら、マンガを読めるのは休憩所に限られており、浴室や岩盤浴に本を持ち込むのはご法度であった
岩盤浴は寝転がれる温度が低めのサウナの様なもので、 体がポカポカして気持ちがいい
サウナよりも長い時間楽しめるが、岩盤浴はどこも私語厳禁であり、その長い時間が手持ち無沙汰になることはサウナーの間でも頭痛の種であった
しかし、ここ名張の湯では、マンガを持ち込めることによってこの問題が解決された
まさに理想郷である
お祭り男がやってきた
そんな理想郷を友達が来るまでの数時間楽しんでいた
岩盤浴は何種類もあり、寝転がる低温のものから、高温で汗ばむ座るタイプのものまで様々である
その高温のサウナのような岩盤浴に入っていた時のこと、突然ジャンボ団扇を持った2人組の男達が入って来た
男達は「これからロウリュウサービスを始めます」と宣言し、そのロウリュウなるものの説明を始めた
なんでも、ロウリュウ(ロウリュ)とはフィンランドのサウナ入浴法で、水やアロマオイルを熱した岩盤にかけて、その水蒸気で温まるのだという
しかし、そのジャンボ団扇を持った男達の姿は、どう見ても『和』そのものであり、IKEAに代表される北欧チックさは微塵も感じることは出来なかった
そして男達はバケツに並々入ったアロマオイルを、室内中央の高さのある岩盤にぶっかけた
そしてそのアロマを拡散させる為
ワッショイ!!
ワッショイ!!
と叫びながら団扇を扇ぎ始めたのだ
フィンランド人が見たら
「そうじゃない、そうじゃないだろ」
と言うに違いない
祭りに参加する
室内中央の高さのある岩盤にアロマオイルをぶちまけ、そこを扇ぐ2人の男達
ワッショイ!!
ワッショイ!!
テンションも最高潮である
すると、お祭り男の1人がこう言った
「お客様の中で扇いでみたい人はいますか?」
そう言われると、俺も年中お祭り男である
当然手を上げて、参加することになった(ちなみに参加したのは俺だけであった)
1人からジャンボ団扇を受け取り、もう1人のスタッフと一緒に室内中央の岩盤を扇ぐ
ワッショイ!!
ワッショイ!!
しばらく扇ぎ続ける
すると、中央の岩盤を一緒に扇いでいたもう1人のスタッフが、今度は座っているお客さんの方を周り出してお客さんを扇ぎ出した
俺もスタッフに促されて、スタッフとは反対側の方の席に回り、お客さんを扇ぎ始める
ワッショイ!!
ワッショイ!!
テンション高くお客さんを扇ぎながらも
なぜ俺が他の客を扇がなければいけないんだろう
という疑問で頭がいっぱいであった
友達が来る
そんなこんなで友達と待ち合わせの時間になった
岩盤浴は別料金なので、友達と待ち合わせしたのは普通の銭湯の方である
友達と会うとさっきの岩盤浴の話になり
「凄いね!!ここの岩盤浴!!まるでお祭りじゃないか!!」
とテンション高く力説していると、友達が何やら怪訝そうな顔をしていることに途中で気付いた
後でわかったのだが、友達は岩盤浴の方は入ったことがなく、ロウリュウサービスを知らなかったのだ
それに気付かなかった為、途中まで
「急にお祭り男達が入ってきて〜」
「バケツに入ったアロマオイルをぶっ掛けて〜」
「俺も祭りに参加した」
等とカオスなワードで俺が熱弁する度に
あっ、極度の湯あたりが脳にまで
と友人には思われてしまったのであった……