伊豆1周の旅①〜磯の香りがしてきた話〜
修行というものになんとなく憧れがあった20代前半
「そうだ、寝袋とかの荷物を背負って伊豆まで行こう!!」と思い立った
自宅は横浜だったので、目的地である無料温泉のある伊豆の雲見までは150kmオーバーだ
それまでも自転車で山梨県の富士五湖を経由してから伊豆半島を1周したことはあったが、徒歩はさすがに初めてである
実はこの計画の段階では伊豆半島を1周するつもりはなく、伊豆半島を北東から南西に斜めに縦断する予定であったが、トラブルにより結果的に1周することになった
その経緯はまた別の機会に話そうと思う
準備をする
修行というからには荷物は重いほうがいい
食料にサバ缶などを大量に買い込み、荷物の重さは30kgオーバーになった
30kgくらいならリュックに背負えば何とかなりそうなイメージだったが、実際に歩くと非常にしんどかった
今ならわかるのだが、縦長のリュックに荷物を詰める場合、下段に軽いもの、中から上段に重いものをパッキングするのが基本である
そうすることで、重さが背中に乗り、負担が軽くなるのだ
しかし当時はその事を知らず、1番下段に缶詰等の重いものを詰めてしまっていた
こうすると、歩いている時に絶えず後ろや下に引っ張られることになり、非常に辛いのである
こうして色々と失敗している準備は整った
そして歩き出す
4月14日の早朝に家を出て伊豆に向かう
最初は10分歩くごとに休憩しなければいけないくらいしんどかった
公園があれば公園で休憩したいが、10分ではそう都合良く公園に辿り着くことも出来ずに、道端に重いリュックをドカッと下ろして休憩する
ヘトヘトになりながら1日目は自宅から20km程歩いた相模川でキャンプし、そして2日目に相模川から30km程離れた小田原に向かう
2日目あたりからは重い荷物にもだいぶ慣れてきた
異変に気付く
小田原に近付くにつれ、磯の香りが漂ってくる
さすが海の近い港町である
思わずニヤリとしてしまう
しかし、それはだんだん磯の香りという生易しいものから、漁港臭へ、そして小田原に着く頃には完全に魚の腐敗臭へと変わっていった
普通に臭い
「小田原ちょっと臭すぎるな……」と思っていると、ふと振り返った時にあることに気付いた
「ん?振り返るとなんかより臭くない?」
試しに何度か振り返ってみる
やっぱり臭い
俺の背中が臭い
「なぜ俺の背中から磯の香り、いやむしろ魚の腐敗臭が!!」
慌ててリュックを下ろして確認してみる
なんと!!リュックの底から謎の液体が漏れて、強烈な臭いを発しているではないか!!
急いで中身を取り出して確認してみる
すると、中に入れてあった大量のサバ缶の内、底の方にあった4缶がひしゃげて、中身がリュックに飛び出てしまっていた
おそらくリュックを何度もドカッと地面に下ろした時の衝撃と、上に積み重なった他の缶詰の重みに挟まれてひしゃげてしまったのだろう
その結果、サバ缶の汁が漏れてリュックにしみ出し、それが漁港の臭いを発していたのである
小田原漁港よりも俺1人の方がよほど漁港臭いではないか!!
これでは歩く漁港臭である
こうして、旅2日目にして絶望感に包まれて、泣きそうになりがらリュックを公園の水道で洗ったのである……
つづく